
2023年の刑法改正により新たに「不同意性交等罪」が創設されました。
暴行や脅迫がなかった場合でも、相手が同意していなかったことが明らかであれば、不同意性交等罪が成立し処罰される可能性があります。
しかし、「同意の有無」は当事者の認識に大きく左右されるため、被害者・加害者の証言が食い違うケースも多く、立証の難しさや冤罪のリスクも指摘されています。
今回は、不同意性交等罪の概要や罰則、実際に裁判で争われるポイントなどをわかりやすく解説します。
不同意性交等罪とは?

不同意性交等罪とはどのような犯罪なのでしょうか。以下では、不同意性交等罪の概要と構成要件についてみていきましょう。
不同意性交等罪の概要と罰則
2023年7月13日施行の改正刑法により、新たに「不同意性交等罪」が創設されました。
これは、従来の「強制性交等罪」と「準強制性交等罪」を統合したものになりますが、暴行や脅迫を手段とする性交等に限らず、相手の同意がないまま行われた性交等も対象となる点が大きな特徴といえます。
つまり、不同意性交等罪は、「被害者の同意がなかったこと」が犯罪成立の重要なポイントとなります。
なお、不同意性交等罪の法定刑は、5年以上の有期拘禁刑とされています。
【参考】不同意性交等罪とは?逮捕されるケースと前科をつけないために
構成要件|「同意しない意思」の証明が重要
不同意性交等罪は、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態で性交等を行った場合に成立する犯罪です。
同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態としては、以下の8つの類型が定められています。
- 暴行または脅迫
- 心身の障害
- アルコールまたは薬物の影響
- 睡眠その他の意識不明瞭
- 同意しない意思を形成、表明または全うするいとまの不存在
- 予想と異なる事態との直面に起因する恐怖または驚愕
- 虐待に起因する心理的反応
- 経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮
ここで重要なのは、「暴行や脅迫」がなくても、「同意しない意思」が確認できれば犯罪が成立するという点です。ただし、「同意の有無」は主観的な問題ですので、実際の場面でどのように判断されるかが大きな争点となります。
同意があると思ったら訴えられた|不同意性交等罪の冤罪立証の難しさ

不同意性交等罪は、被害者保護の観点から「同意しない意思」を犯罪成立要件の一つとしていますが、これは加害者にとっては冤罪のリスクを高める要素となります。
不同意性交等罪の冤罪立証が難しいと言われるのは以下のような理由があるからです。
被害者と加害者の供述が食い違うケースが多い
不同意性交等罪の事案は、被害者と加害者の供述が食い違うケースが多いです。
被害者は「同意していない」と主張するのに対して、加害者は「同意があった」と反論します。捜査機関は、被害申告をした被害者の供述を重視して捜査を進める傾向がありますので、冤罪であったとしても被害者が「同意がなかった」と主張すると、逮捕される可能性があります。
物理的な証拠が残りにくい
不同意性交等罪の事案は、ホテルや自宅などの第三者のいない密室で起きることが多いため、同意の有無に関する物理的な証拠が残りにくいという特徴があります。
同意の有無は、当事者の主観的要素であるという点も不同意性交等罪の冤罪立証を難しくする要因の一つとなります。
被害者の心理的な抵抗を認識することが難しい
被害者が声を出さず、はっきり拒絶しなかった場合、加害者としては「性行為に同意している」と考えて性行為に及ぶケースがあります。
しかし、実際には恐怖やショックで体が硬直してしまい、拒否の言葉を発することすらできない被害者も少なくありません。このような双方の認識の違いが不同意性交等罪の立証を難しくする原因の一つとなります。
「言ったもの勝ち」にならないためのポイント

SNSやネット掲示板などでは、「不同意性交罪は被害者の言い分だけで成立する」「冤罪が増える」といった不安の声も見受けられます。
しかし、実際の刑事手続では、被害者の供述だけで有罪になることはなく、被害者の供述を裏付ける客観的な証拠が必要になります。そのため、被害者から「同意がなかった」と言われたとしても、それだけでは不同意性交等罪に問われることはありません。
ただし、被害者が不同意性交等罪で被害届を提出すれば、警察は捜査を開始しますので、冤罪であっても逮捕される可能性があります。「言ったもの勝ち」にならないようにするためにも、早期に弁護士に相談して、自分に有利な証拠の収集を始めるようにしてください。
裁判で争われるポイント

不同意性交等罪の刑事裁判では、以下の点が争われることになります。
被害者の「同意しない意思」の有無
不同意性交等罪の裁判では、被害者が本当に「同意しない意思」を有していたのかどうかが争われます。
同意しない意思の有無は、被害者の供述だけではなく、以下のような客観的な証拠に基づいて判断されます。
- 事件前後のLINEやメールなどのメッセージのやり取り
- 動画や音声記録
- ホテルの入退室時の防犯カメラ映像
- 同意を得るための事前の取り決めや契約
加害者が「同意しない意思」を認識していたか
不同意性交等罪は、故意犯ですので加害者が被害者の同意がないことを認識していなければ成立しません。冤罪を争う加害者としては、「同意があると認識していた」ということを立証していかなければなりません。
ただし、同意があったと思っていたとしても、その認識が客観的な状況から合理的なものだといえなければ、単なる過失ではなく故意が認められる可能性もあります。
証拠の信憑性
不同意性交等罪の裁判では、「同意しない意思」の有無が重要な争点になりますので、それを裏付ける証拠の信憑性は慎重に検討していく必要があります。
特に、被害者の供述が主な証拠である事案では、以下のような観点から供述証拠の信用性を吟味してかなければなりません。
- 客観的事実との整合性
- 供述内容の矛盾や一貫性
- 供述内容の迫真性
- 虚偽供述の動機
【参考】不同意性交等罪とは?逮捕されるケースと前科をつけないために
弁護士に相談するメリット

不同意性交罪は、「同意しない意思」が成立要件の一つとなっているため、双方の認識のずれにより逮捕される可能性もあります。被害者から「同意がなかった」と言われてしまったときは、以下のようなメリットがありますので、すぐに弁護士に相談するようにしてください。
- 取り調べに対する適切な対応方法を指導してくれる
- どのような証拠を準備・提出すべきか、戦略的にアドバイスしてくれる
- 必要に応じて、被害者側との示談交渉を代理してくれる
- 不起訴の可能性を高めるためのサポートをしてくれる
特に、逮捕前の段階で早期に相談すれば、証拠の確保や被害者との示談交渉により、逮捕の回避や不起訴処分獲得の可能性が高くなります。
不同意性交等罪の疑いをかけられてしまったときは、すぐに弁護士法人山本総合法律事務所までご相談ください。