
暴行罪と傷害罪の違い

暴行罪と傷害罪は、どちらも他人に暴行を加えると成立する犯罪です。
もっとも、暴行罪と傷害罪とでは科される罰則や量刑が異なり、成立要件にも違いがあります。
また、弁護活動の方針や示談金の金額にも違いが現れます。
今回は、似ているようで違いも大きい暴行罪と傷害罪について、罰則や成立要件について解説します。
暴行罪の成立要件と罰則

暴行罪は刑法第208条に規定される犯罪で、
①他人に対して暴行=他人の身体に向けた不法な有形力を行使したものの
②相手に傷害(怪我やPTSDなど)を負わせなかった場合に成立します。
典型的には人を殴ったり押したりする行為が該当します。
直接身体に触れない間接的な有形力の行使(例えば、足元に物を投げる、狭い部屋で刃物を振り回す等)も暴行罪が成立する可能性があります。
また、
③暴行の故意も成立要件です。
暴行罪は故意による暴行行為のみが処罰対象であり、過失によるものは含まれません。
つまり、わざと暴行を加えた場合にのみ成立する犯罪です。
暴行罪の法定刑は「2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留もしくは科料」と定められており、傷害罪と比較すると、傷害を負わせなかった分だけ軽微な罰則となっています。
傷害罪の成立要件と罰則

傷害罪は刑法第204条に規定される犯罪で、
①人に暴行を加え
②被害者に傷害(健康状態を損なうこと)が発生し
③②が①により発生した(因果関係がある)場合に成立します。
ここでいう「傷害」とは、打撲や切り傷といった外傷だけでなく、頭痛・嘔吐・失神など生理機能の障害や、病気を感染させる行為、PTSD等の精神的障害を生じさせる場合も含まれます。
③は、被害者に生じた傷害が加害者による暴行により生じた場合に認められます。
傷害が生じても加害者の暴行と無関係(ex被害者の持病により傷害が発生した)であれば、③を満たさないため傷害罪は成立しません。
また、暴行罪と同じく④故意が必要です。
注意が必要なのは、あくまで暴行の故意で足りるのであり、傷害を生じさせる故意までは不要という点です。たとえ加害者に傷つける意図がなくても、わざと暴行を加え、その暴行の結果として被害者に傷害が生じた場合は傷害罪が適用されます。
傷害罪の法定刑は「15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」であり、暴行罪に比べて重い刑罰が科せられる犯罪です。
怪我がない場合に暴行罪は成立する?

被害者に怪我がなくとも、暴行を加えた時点で暴行罪が成立します。
このことは、暴行罪を規定する刑法208条にも「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」と明記されています。
過去の事例では、他人の衣服を掴んで引っ張る行為、太鼓を連打して意識を朦朧とさせる、他人の髪を勝手に切る行為などが暴行罪に該当すると判断されています。
逆にいえば、暴行を加えた者が人を傷害するに至った場合には傷害罪が成立します。
暴行罪と傷害罪の違いは、暴行により被害者に「傷害」という結果が生じたか否かにあるのです。
暴行罪と傷害罪の逮捕される可能性の違い

一概に断定はできませんが、傷害罪の方が逮捕される可能性が高い傾向にあります。
傷害罪の方が罰則が重く、被害者に傷害という現実の被害を負わせている点で暴行罪よりも悪質であるため、捜査機関としても逮捕に踏み切るケースが多いです。
他方、暴行罪は傷害罪よりも罰則が軽く、被害者に傷害も生じていないため、逮捕の必要性は低いと評価されやすいです。
もっとも、暴行罪だからといって逮捕されないとも限りません。
加害者が独断で傷害は無いと判断しているに過ぎず、実は傷害が生じており傷害罪だった、ということも珍しくありません。
また、被害者から被害届が提出され捜査機関がこれを受理した場合、暴行罪であっても逮捕される可能性は高まるでしょう。
【参考】ご家族が逮捕された方へ
暴行罪と傷害罪の量刑の決まり方

暴行罪と傷害罪で有罪となった場合の量刑は、様々な事情を総合考慮して判断されますが、特に重要なポイントを紹介します。
なお、暴行罪と傷害罪は他人へ暴行を加えるという行為態様は共通しますので、量刑判断のポイントも概ね共通します。
①暴行の態様・程度
暴行が1回だけなのか複数回なのか、長時間にわたる執拗な暴行なのか、暴行の態様が軽いものか重いものかで被害者の受ける苦痛は異なります。
暴行の程度が重く悪質である程、慰謝料や示談金は高額になり易いです。
②被害者の属性・状況
加害者と被害者の体格差が大きい場合や、被害者が女性・未成年など弱い立場にある場合は、被害者の受ける精神的衝撃も大きいため、量刑が重くなり易いです。
③傷害や精神的苦痛の度合い
暴行により生じた恐怖心や屈辱感、不眠・食欲不振など心理的影響の深刻さも慰謝料額に反映されます。特に傷害罪においては、被害者に負わせた傷害の内容や程度も考慮されます。
傷害が重かったり、後遺症を残したりする場合は量刑が重くなりやすいです。
④加害者の態度
事件後の加害者の対応も重要です。
早期に真摯な謝罪と反省が示されれば量刑が軽くなる可能性があります。
⑤前科
前科がない場合は量刑が軽くなり易いです。
前科がある場合は量刑が重くなり易く、特に執行猶予中の再販だと量刑が重くなるのは必至です。
⑥示談
示談が成立し、適切な金銭賠償による被害回復と被害者からの許しを得ていれば、量刑が軽くなりやすいです。
暴行罪や傷害罪の加害者になってしまった場合は示談成立を目指しましょう

暴行を加えてしまい暴行罪や傷害罪に問われてしまった場合、被害者との示談は非常に重要です。
示談が成立すれば、逮捕を避けられたり、不起訴や起訴猶予となったりする可能性を高められます。
公判で有罪となった場合も、加害者に有利な事情となり量刑を軽くできるかもしれません。
早期の段階から示談交渉に着手し、示談成立を目指すべきです。
示談のポイントは、金銭賠償による被害回復と被害者からの許し(宥恕)の2点です。示談金には一般的な相場はあるものの、示談を成立させるためには被害者の合意が必要なので、事案によって増減があります。
特に傷害罪の場合は、治療費や休業損害といった実損も含めると示談金は高額になりがちです。
示談の際は、暴行罪と傷害罪の違いを理解したうえで、適切な条件や示談金での示談成立を目指しましょう。
【参考】ひとを殴ってしまった…!被害届を出されたらどうなる?
暴行罪や傷害罪に問われた場合は弁護士法人山本総合法律事務所へご相談ください

暴行罪や傷害罪は、暴行という行為態様は共通しますが、成立要件や罰則・量刑に違いがあります。
両者の違いを理解しなければ適切な対応や示談交渉は困難です。
暴行罪や傷害罪に問われた場合は、早めに弁護士に相談することを強く推奨します。
早期に相談していれば、取調べの対応方法等の初動に関するアドバイスを受けられますし、被害者と交渉して示談を成立させ刑事事件化や民事訴訟を未然に防げる可能性があります。
当事務所では、暴行罪や傷害罪をはじめとする刑事事件に関するご相談を受け、依頼者の権利を守るため弁護活動を行ってきました。
また、法律的な弁護活動だけでなく、依頼者ご本人や親族の立場に立った親身なサポートを行っております。
当事務所のたしかな経験とノウハウを持つ専門の弁護士がご相談をお受けしますので、まずはお気軽にお問合せください。